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名古屋地方裁判所 昭和62年(ワ)3343号 判決 1990年8月31日

原告

松山侑古こと李美順

被告

岩本雅夫こと李大根

ほか二名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金一〇〇三万一〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その六を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金一四〇〇万七九三三円及びこれに対する昭和五七年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が左記一の交通事故の発生を理由に被告岩本雅夫こと李大根(以下「被告雅夫」という。)に対しては民法七〇九条により、被告岩本哲秀こと李哲秀(以下「被告哲秀」という。)及び被告岩本夏子こと李夏子(以下「被告夏子」という。)に対しては自賠法三条により損害賠償請求をする事案である。

一  争いのない事実

交通事故

1  日時 昭和五七年一一月二八日午前〇時一五分ころ

2  場所 名古屋市西区康生通二丁目三八番地先路上

3  加害車両 被告雅夫運転の普通乗用自動車(岐五七る七六六八)

4  態様 被告雅夫が、加害車両の助手席に原告を同乗させて走行中、ハンドル操作を誤り、加害車両を右場所に設置されていたガードレールに衝突させた。

5  傷害 頭部外傷、顔面・右膝挫創、前歯損傷、右上肢挫傷

二  争点

被告らは、被告らの責任原因及び本件事故による損害額を争うほか、原告は、加害車両に同乗し、原告自身もジグザグ運転等の危険な運転に関与ないしはこれを容認してスリルを楽しんでいたものであり、また、原告の負傷の程度が重かつたのは助手席におりながらシートベルトを着用していなかつたためであり、原告の被つた損害から好意同乗による減額をするべきであると主張している。

第三争点に対する判断(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)

一  被告らの責任原因

1  被告雅夫

争いのない事実、甲第一号証、原告・被告雅夫各本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。

被告雅夫は、本件事故前、原告、竹村景国、松山晟哲及び江城某を加害車両に同乗させてドライブをしていたが、江城をその自宅まで送り、同女を加害車両から降ろして加害者両を急発進させ、ジグザグ運転を開始したところ、その直後、ハンドルを取られて左側のガードレールに加害車両を衝突させた。

右事実によれば、本件事故は被告雅夫の安全運転義務違反の過失により発生したことが明らかであるから、被告雅夫は、民法七〇九条に基づき、本件事故により原告が被った損害を賠償すべき責任を負う。

2  被告哲秀及び被告夏子

被告雅夫本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件事故当時被告哲秀(被告雅夫の実父)は加害車両の運行を支配し運行利益を得ていたこと、被告夏子(被告雅夫の実姉)は加害車両を所有していたことが認められ、したがつて、被告哲秀及び被告夏子はともに自賠法三条に基づき、本件事故により原告が被つた損害を賠償すべき責任を負う。

二  損害額

1  付添看護費(請求一〇万五〇〇〇円)

原告本人尋問の結果によれば、原告が昭和五七年一一月二八日から同年一二月二七日(三〇日間)まで菊井外科病院に入院していた間、原告の実母が付き添つていたことを認めることができるが、原告が右入院期間中実母による付添看護を必要不可欠としたことを認めるに足りる証拠はない。

2  入院雑費(請求も同額) 三万円

入院雑費は、一日当たり一〇〇〇円と認めるのが相当であるから、三〇日間で右金額となる。

3  通院交通費(請求六万九五〇〇円) 一〇〇〇円

甲第四号証、乙第一号証の一二、乙第二号証の一、原告本人尋問の結果によれば、原告は、菊井外科病院及び米田整形外科病院に各一日通院し、通院交通費として少なくとも右金額を支出したことを認めることができる。

ところで、原告は、加藤接骨院に一三七日間通院したとして、そのために要した交通費をも請求するが、加藤接骨院における通院治療が医学的に必要であり、原告の症状に効果があつたことを認めるに足りる証拠はなく、したがつて、加藤接骨院に通院するために要した交通費を本件事故と相当因果関係にある支出と認めることはできない。

4  休業損害(請求一三一万七九三三円)

乙第一号証の一二によれば、原告は本件事故による受傷のため昭和五七年一一月二八日から同年一二月二七日までの間休業・休学を必要とする状態であつたことが認められるが、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は右期間愛知朝鮮中高級学校高等部第三学年に在学中であつて本件事故に遭遇しなくても収入が無かつたものであり、他に原告の休業損害の主張を認めるに足りる証拠はない。

5  慰謝料

(一) 入通院慰謝料(請求二〇〇万円) 三五万円

前記認定の原告の受傷の部位・程度、入通院期間等を考慮すると、右金額が相当である。

(二) 後遺障害慰謝料(請求九四九万円) 九〇〇万円

乙第三号証、鑑定人吉田一郎による鑑定の結果によれば、原告には本件事故による受傷のため、左前額部に長さ合計九・六センチメートル、幅一ないし二ミリメートルの線状瘢痕が、右前額部に長さ合計九・五センチメートル、幅一ないし四ミリメートルの線状瘢痕が、右眉の上縁に長さ三・五センチメートル、幅一ないし一・五ミリメートルの線状瘢痕がそれぞれ残つていることを認めることができる。

右認定の原告の後遺障害の内容・程度等を考慮すると、右金額が相当である。

三  好意同乗による減額

前記一に認定のとおり本件事故は被告雅夫の安全運転義務に反した危険な運転に起因するものであるところ、加害車両に同乗していた原告が右危険な運転に積極的に関与したり或いは容認してスリルを楽しんでいたことを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、原告本人尋問の結果によれば、原告は被告雅夫がジグザグ運転を開始すると直ちに同被告に対しこれを止めるように懇願していたことが認められ、原告と被告雅夫が本件事故当時同じクラスの同級生という関係にすぎず、原告が被告雅夫からドライブに誘われて初めて被告雅夫運転の車両に同乗した際の事故であつたことをも併せ考慮すると、本件において好意同乗を理由として原告の損害額を減額するのは相当ではない。また、原告にはシートベルト着用の義務はなく、仮に本件事故当時原告がシートベルトを着用していなかつたとしても、これを理由に原告の損害額を減額することも相当ではない。

四  弁護士費用(請求一〇〇万円) 六五万円

原告が被告らに対し本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求め得る弁護士費用は、本件事故時の現価に引き直して六五万円と認めるのが相当である。

五  結論

以上によれば、原告の請求は、被告らに対し、各自一〇〇三万一〇〇〇円及びこれに対する本件事故当日である昭和五七年一一月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 深見玲子)

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